大判例

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東京地方裁判所 昭和22年(ワ)1162号 判決

原告 糟元一合資会社

被告 沢辺保 外一名

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告沢辺は東京都所有の同都台東区浅草公園地第二区仲店東側五号工作物被告青木は同四号工作物各鉄筋コンクリート造二階建家屋一棟の内建坪二坪外二階二坪を占有して業務を営む地位を承継し保持する権利を有しないことを確認する。原告に対し、被告沢辺は右五号工作物内にある別紙第一目録<省略>被告青木は同四号工作物内にある同第二目録<省略>各記載の物件をそれぞれ引き渡すべし。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、本件四号及び五号の各工作物は何れも東京都台東区浅草公園の工作物中仲店と称する工作物の一部であつて都の所有に属し、都は大正六年十二月二十二日條例第八号東京都公園使用條例により公園施設に伴う業務を営む者及びその業務の承継者に限つて有料でその使用を許可すべきものである。ところで、右仲店は昭和二十年三月十日の戰災によつて大破したので、旧使用者は昭和二十一年中自費で修理復旧することを條件として都から引き続いて借り受けることゝなつたが、当時旧使用者の所在不明であつた本件四号、五号及び外一箇所の工作物は仲店一帶の工作物の使用者で組織する商店会が費用を立て替えて修復するとともに、第三者にその使用を許す一方、旧使用者のためには慰藉金名義の補償金を積み立てゝ置くこととなつたので、原告は昭和二十一年七月中商店会代表者に対し商店会の立替金及び慰藉金合計一万七千九百八十円を支拂い、四号及び五号工作物の事実上の占有を承継すると同時に、都に対しては原告の使用人富沢芳明の名義で右各工作物の使用許可を申請し、同年九月十日その許可を得、爾來、同工作物で菓子販賣業を営んでいたのである。しかるに、被告両名は昭和二十二年六月中右富沢を誘惑し、同人をして、被告沢辺に対し五号工作物の使用権及び営業権並に同工作物内にある原告所有の別紙第一目録記載の物件を、被告青木に対し四号工作物の使用権及び営業権並に同工作物内にある原告所有の同第二目録記載の物件をそれぞれ讓渡する旨の意思表示をさせた上、右各工作物を使用して業務を営む地位を承継したと称して都に対し、所定の手続をし、都から右各工作物の使用許可を受け、あまつさえ、暴力を以て原告から同各工作物及び原告所有物件の占有を奪い、爾來、これ等を占有使用して自己の営業を営んでいるのである。しかしながら、仲店の使用許可が業務の承継者に限つて許可さるべきものである以上、その僣称承継者に過ぎない被告等に対する都の右使用許可は取り消さるべき運命にあり、被告等は本件各工作物を占有して業務を営む地位を承継し保持する権利を有せず、却つて、右取消の曉は原告が当然に右各工作物の使用を許さるべき筋合であるから、ここに、被告等に対し右権利不存在の確認と所有権に基き被告等の各占有する原告所有物件の引渡を求めるため本訴に及んだ次第であると陳述し、被告等の即時取得の抗弁に対し、被告沢辺保は昭和二十一年十月以來五号工作物の隣りに居住し、また、被告青木ふみの父青木酉藏は同年十一月頃仲店の世話役をしていたのであつて、被告等はともに本件各動産物件が富沢芳明の所有に属しないことを知つていたものであるから、被告等の右抗弁は何等そのいわれのないものであると述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、本件四号及び五号の工作物の使用許可を受けたのが原告であつて、富沢芳明は形式上の名義人に過ぎないとの点、原告主張の動産物件が原告の所有であるとの点、富沢と被告等との間の右各工作物の使用権、営業権及び原告主張の動産物件の讓渡契約が被告等が富沢を誘惑して取り結ばせたものである点及び被告等が右動産物件を暴力で占有したことは否認する。その他の事実は認めるが、(一)仲店使用の準拠法である原告主張の使用條例は仲店は許可名義人以外の者の使用を禁止し(同條例第七條)、この禁止に違反したときは許可は効力を失う(同第十四條)ことを規定しているのであつて、同條例による使用許可は創設的効力を有し、その許可を受けた者は使用権を原始的に取得するものであるから、本件四号及び五号の各工作物の使用許可が原告主張のように富沢芳明名義でなされたものである以上、原告と同人との間の内部関係が如何ようにもあれ、原告は東京都に対する関係では右各工作物について何等の権利も取得するものではない。のみならず、富沢は被告等との間に原告主張のような各讓渡ができると、昭和二十二年六月四日東京都に対し右各工作物の返納届を提出してこれに対する使用権を放棄し、被告等は改めて都に対しこれが使用権を提出しその許可を受けたものであるから、被告等の右各工作物の使用権の取得及びこれにおける営業の実施は原告とは何等の関係もないのである。(二)仮に原告主張の動産物件が原告の所有であつたとしても、右物件は原告において予てからこれを富沢芳明に占有使用させていたものであるが、被告等は原告主張の各讓渡契約に基いて善意無過失で富沢からその引渡を受けたものであるから、被告等はこれによつて右物件の所有権を取得したのである。以上の次第であるから原告の本訴請求は総て失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

一、確認請求の当否

本件四号及び五号の各工作物が何れも東京都台東区浅草公園の工作物中仲店と称する工作物の一部であつて都の所有に属し、これが使用許可の準拠法が大正六年十二月二十二日の條例第八号東京都公園使用條例であること及び昭和二十二年六月中、被告沢辺が五号、被告青木が四号の工作物の各使用許可から受けたことは当事者間に爭がない。

しかして、本件確認の訴の請求の原因は右各許可に拘らず被告等は右各工作物を占有して業務を営む地位を保持する権利を有しないものであるとするにあるから、その請求の当否は右各許可の法律的性格如何によつて決するものといわなければならない。ところで、その性格であるが、前記公園使用條例(成立に爭のない乙第八号証参照)は(一)東京都公園地内の土地及び都有工作物は官公署の使用に供するものを除き同條例の規定により特にその使用を許可するものであること(二)都に必要のあるときは使用期間でも都は六箇月前の予告で許可を取り消し得ること(三)使用者が都に住所を持たなくなつたとき、許可の目的物を他人に使用させたとき、その他一定の事由の発生したときは許可は効力を失うこと(四)使用者は都の一方的に定める使用料を納付する義務を有すること(五)その他多くの強制的処分をし得ることを規定するとともに、使用権の移轉讓渡について右(三)の規定と工作物使用者の業務を承継した者がその工作物を引き続き使用することを出願したときはこれに優先権を與えるに止まる旨の規定を設けて、間接に自由な移轉讓渡を禁止することを明かにしているが、かような物の使用関係は一般私法上のそれと本質的に異なるから、右條例による許可は都がその自治行政権に基いてする一の行政行爲であつて、その性質上創設的効力を有するものと解するを相当とする。果してしからば、前認定の各許可が、たとえ、原告主張のように富沢芳明と被告等との間に原告主張のような本件各工作物の使用権及びその工作物における営業権の讓渡があつたものとしてなされたものとしても、そのことが被告等が右各許可によつて原始的に取得した本件各工作物の使用権、從つてまた、右各工作物において営業する権利に何等の消長を來すものでないことは自明であるから、その表現は如何ようにもあれ、被告等のこれ等の権利を爭うにある原告の本件確認の請求は他の判断を待つまでもなく失当としてこれを棄却するの外はない(若し、原告の眞意が都の許可は原告主張のような経緯でなされたものであるから取り消さるべきものとするにあれば、原告は都を被告として右許可取消の訴を提起すべきである)。

二、動産引渡請求の当否

被告等がそれぞれ原告主張の物件を占有していることは当事者間に爭がない。

しかして、証人糟谷むね、石橋祥夫の各証言を綜合すれば、右各物件は原告が本件五号及び四号の各工作物内にその造作及び営業用什器類として取り付けた物件であることを認めることができ、これが反証はないから、右取付当時にあつてはその所有権は原告にあつたものと認めるの外はない。よつて進んで被告等の即時取得の抗弁について按ずるに、先ず、被告等の右各物件の占有が平穏且つ公然に開始されたものでないことについては何等の反証がないから、右占有は平穏且つ公然に始められたものと認めなければならない。次に、本件五号及び四号の各工作物が東京都の所有であつて、從前その使用が富沢芳明名義で許可されていたこと及び右富沢が昭和二十二年六月中被告等との間にそれぞれ右各工作物の使用権及び本件各物件の讓渡契約をしたことは当事者間に爭がないが、更に、これを証人岡田四郎、沢辺松三郎、青木酉藏の各証言及び成立に爭のない乙第二十三号証の二、証人富沢芳明の証言によつて成立を認め得る同第九号証並に右沢辺の証言によつて成立を認め得る同第二十号証の一と綜合して考えれば、本件五号及び四号の各工作物を含む浅草公園仲店で営業する者は商店会を組織し、会員は時々会合し、会費を醵出し、また、都に対する使用料は会を通じて納めることになつているが、富沢芳明は昭和二十一年十一月頃から本件各工作物内に居住し、原告から本件各物件を占有使用して菓子商を営むことを許されるとともに、爾來、自己名義で右会合に出席し、会費及び使用料を納めていたが、原告はこれに関して右各物件及び営業の権利者が自己であることを表示しなかつたので第三者は一般に富沢を右各物件及び営業の権利者と信じており、被告等もその例に漏れず、富沢をその権利者と信じて前記讓渡契約を取り結んだものと認めるを相当とする。証人山本藤五郎は本件各工作物には前記讓渡契約以前に原告の表札が掲げてあつたと証言し、また、証人糟谷むめは原告は昭和二十一年九月頃仲店の復興祭に当り右工作物の店頭に原告名義の祭灯燈を一週間位に亘つて掲揚したと証言するけれども、右各証言は信用しない。もつとも、富沢芳明が前記菓子商を始めるに当り、原告の社員である糟谷むめが富沢と一諸に隣近所に挨拶廻りをしたことは証人沢辺松三郎の証言及び成立に爭のない甲第十一号証に徴して明白であるけれども、右沢辺の証言によればむめが富沢と同道したのは富沢の介添の趣旨であつたものと推認されるから、右挨拶廻りの事実は前認定の妨げとするに足らない。しかして、その他に右認定を動かすべき証拠はないが、かような事情の下で被告等が本件各物件を富沢芳明の所有と信じたのは当にその所であつて、これを以て被告等の過失に出たものとすべきでないことは疑問の余地がないから、被告等は右各物件の占有と同時にその所有権を取得したものといわなければならない。

果してしからば、本件各物件が今なお原告の所有であることを前提とする原告の本件動産引渡の請求がそのいわれのないことは自明であるから、右請求もまた失当として棄却するの外はない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條の規定を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 田中盈)

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